僕を育ててくれた仕事の話し ①

某大手家具屋さんで家具デザイナー修行をしていた頃

ある忘れられない仕事を担当することになった

 

それはとある有名ホテルのレストランの椅子を

リデザインするという仕事

 

ホテル内の鉄板焼きレストラン

カウンターの傷みが目立ってきたので

既存のカウンターの上に厚さ10mmの無垢材を乗せることになり

それに合わせて椅子の座面の高さ(シートハイ・SH)を

10mm高くするというものだった

 

「脚を10mm長くすりゃいいじゃん」

と思うかもしれないけれど

そうはいかない

 

その椅子は

横から見ると背もたれの上端から後脚の先までが

滑らかに弓なりになっていて

見るからにかけ心地が良さそうで

後脚は単調過ぎず踏ん張りすぎずの

絶妙な感じで床に立っている

 

これを単純に脚を10㎜伸ばしてしまうと

ほんの数ミリだけれど脚が後ろに出てしまう

そうすると踏ん張る感じ、突っ張る感じが出てしまい

上品な姿が損なわれてしまう

 

ということで

SHを10mm伸ばし、背もたれの感触を変えることなく

背もたれ上端から脚の先までの曲線を修正して

元のデザインと同じところに脚を設置させる

というのが僕のミッションだった

 

背もたれの当たり(曲線)を守って

同じところにただ着地させるだけなら

座面から下の足の部分を

少し立たせるだけでいいのだけれど

現状で一番美しい曲線になっているのに

下半分だけを違う曲線にしてくっつけても

美しくなるはずがない……

 

正直言うと

「やってみるか?」

と上司に言われた時は

ちょっとしたチャレンジくらいに思っていたけれど

これがとんでもなく大変な

そのかわり自分を大きく育ててくれる

仕事となったのだった

つづく

コメントは停止中ですが、トラックバックとピンバックは受け付けています。